轟千尋先生の「ぴあの で ものがたり」 [書評]
先日、轟千尋先生の新刊がでました。
「ちいさなピアノ組曲集 ぴあの で ものがたり」です。
もともとこの曲集は、「月刊ムジカノーヴァ」で2010年4月号から始まった連載で掲載された曲をがもとになっています。
同誌で連載で、ピアノの先生のリクエストによって生まれ、書き下ろされた作品の数々を、一冊にまとめたものが、この曲集ということです。
作品は、タイトルにもあるように、すべて「組曲形式」になっていまて、ピアノ曲だけでなく、連弾曲や他の楽器(リコーダー等)とのアンサンブル曲もあります。
各曲には「詩」が添えられていて、作品のイメージを膨らませるための大事な要素となっています。
ピアノを弾くときに大事なのは、曲に対するイメージや何かを想像して、それを音にしようとすること。
これらの「詩」は、ピアノを弾く前に、まずは曲のイメージを広げる大切な役割を果たしているのではと思います。
この曲集には、6曲の組曲が収められています。
「想い出の風景」
「森の組曲」
「小さな花」
「4つの季節のうた」
「道化師の涙」
「窓辺にて」
私もすべての曲を弾いてみましたが、どれも繊細で、美しい作品ばかりだと感じました。
弾いていると、どこか懐かしい感じがしたり、さまざまなイメージが湧いてきます。
小道を歩いていてふと立ち止まる、風の音、光がはじける、湖面に水の輪が広がっていく。そんなイメージが自然と湧いてくるのが不思議です。
このことは、おそらく巻頭の「まえがき」にヒントがあるように思います。
「音そのものや曲から感じ取れるイメージ」
「楽譜を深く読んで気づくこと」
「音をならす前の時間、音のない時間」
こうした、音楽に触れるときに「何かを感じること」を作曲者の轟先生は大切にされています。
とかくピアノの場合は、上手に弾こう、間違わずに弾こう、といった部分にフォーカスしがちです。
けれどももっと大切なものは、そうした「感じること」「考えること」そして「気づくこと」にある。
「あなたならどう弾きますか?」
「どの和音が一番すき?」
「和音の移り変わりにどんな変化をつけますか?」
だからこそ巻末の「作曲家からのメッセージ」はすべて「問いかけ」であり、子供たちに「何か」を気づかせる。そうしたことを大切にされているのでしょう。
作品の数々の素晴らしさや、轟先生の音楽観は、触れてみてはじめて分かるものです。
ぜひ「轟千尋ワールド」を感じてみてはいかがでしょうか。
【今日の一冊】
「ちいさなピアノ組曲集 ぴあの で ものがたり」
「本当に役立つ!ピアノ練習法74」 [書評]
ピアノを習う人にとって、どういう練習をすれば効果的に上達できるのかは、興味の対象だと思います。
また、自分以外の人が「どのように練習しているか」を知る機会はあまりありません。
そういうこともあってか、最近はいわゆる「ピアノの練習法本」が、多く出版されているように思います。
先日読んだ本に、「本当に役立つ!ピアノ練習法74(リットーミュージック)」がありますが、これもそうした書籍のひとつです。
現役の指導者や演奏家17人が、自ら実践するピアノ練習法をまとめた本です。
実際に読んでみて、なるほどと思うものを、ちょっと挙げてみたいと思います。
●09「数えなくても音符が読めるようになる方法」
⇒線の上の12個の音だけとにかく覚えてしまう
●14「暗譜がしやすくなる方法」
⇒楽譜を書き写して弱いところを補強
●17「暗譜力を上げる方法」
⇒左手だけの暗譜をする
●19「音符の認識力をアップさせる方法」
⇒単語帳を活用する
●22「短時間で成果を上げる練習方法」
⇒小さい明確な目標を立てる
●25「まむし指を直す方法」
⇒輪ゴムを使って矯正する
●29「テンポをキープする方法」
⇒裏拍にメトロノームを合わせる
●36「無駄を省く練習法」
⇒練習日記をつける
●52「脱力のコツを掴むための練習方法」
⇒げんこつ奏法で腕の力の抜き方を知る
●59「ppを力まずに弾く方法」
⇒譜面に書いてあることと真逆のことをしてみる
ピアノを練習する方法は、10人いれば10通り。人それぞれ違いますし、合う合わないもあります。
そのため、この書籍に掲載されている内容も、すべての人に当てはまるというわけではないでしょう。
ただ、練習の幅を持たせることは、様々なアプローチから自分の演奏を客観的に見つめることにつながるのではと思います。
思うのは、たくさんの練習法があるなかで、自分に「今」必要なもの、最適な練習の仕方を「模索する」こと。
そうした試行錯誤のなかで、多くの気づきを得たり、失敗や体験を通して学ぶことは少なくありません。
自分と深く向き合い、何らかの解決策を見出す、そうした「行為」にこそ価値がある。
結果的に、こうした「経験」が自分にとっての一番の練習法、ではないかと思ったりします。
【今日の一冊】
「本当に役立つ!ピアノ練習法74(リットーミュージック)」
絵本「ちいさなあなたへ」 [書評]
絵本というと、子供のためという印象がありますが、大人が読んでも面白かったり、考えさせられたりするものもたくさんあります。
先日読んだ絵本は、深く心に響きました。
「ちいさなあなたへ(主婦の友社)」という絵本。
男である私が読んでも、じんわりきたので、お子さんを持つお母さんであれば、きっと感じるものは大きいと思います。
私も子供ができて、心の感度が敏感になったように思います。
それは、何かのために生きることの尊さを、知ったからではないかと思います。
この絵本は、そんな大切なものを改めて気づかせてくれる、そんな一冊だと思います。
「CDでわかる みんなの楽典 高田美佐子・著」 [書評]
スポーツを楽しむためにルールがあるように、音楽を楽しむためには、やはり知識や仕組みなどを理解している必要があります。
そうしたこともあり、世の中には、たくさんの「楽典本」があります。
最近出た書籍に、「CDでわかる みんなの楽典 高田美佐子・著(ナツメ社)」があります。
この書籍には、難しくとらえられがちな楽典を、分かりやすく学べるような工夫がたくさんあります。
たとえば、付属のCDは、聴きながら学ぶために、各問題と対応しています。
やはり音楽の勉強の基本は、聴くことにあります。そのため聴きながら自分のペースで学べるのはいいですね。
フランソワという11歳の少年のキャラクターと一緒に学んでいきますが、付属のCDで歌っているのが、このフランソワ君、ということなのでしょう。
コンテンツとしては、
【第1章】音の高さ
【第2章】音の長さ
【第3章】拍とリズム
【第4章】音程
【第5章】音階
フランソワのパリ音楽散歩
【第6章】和音
【第7章】ニュアンス
【第8章】音楽の形式
まとめの問題
となっています。
イラストもたくさんあり、カラーなので見た目にも取り組みやすい印象を与えます。
ビジュアル的に、おそらく子ども向けに作られた書籍だと思うのですが、大人でも幅広く使えると思います。
各所に、細かい解説などがあり、専門的に学んできたつもりでも、知らなかったことがあったりして、勉強になりましたね。
フランソワ君と一緒に巡る、「フランソワのパリ音楽散歩」は、パリの写真と共に、音楽が生まれた背景を知ることができます。
私も一度だけパリを訪れたことがありますが、あの時の街の香りや雰囲気を思い出しました。
こうして、音楽の背景を学びながら、いろんな街を巡ることができたらより理解も深まるでしょうね。
問題も多く掲載されていて、楽典のエッセンスを十分学ぶことができるので、コストパフォーマンスの高い書籍ではないかと思ったりします。
楽典を詳しく、そして楽しく学びたい生徒さんには良い教材ですね。
詳しくは、ナツメ社のホームページにて。
★今日の一冊
「CDでわかる みんなの楽典 高田美佐子・著(ナツメ社)」
「ピアニストの脳を科学する 超絶技巧のメカニズム(春秋社)」 [書評]
とある先生に紹介いただき、読んだ本があるのですが、ご紹介通り、とても良い本でした。
古屋晋一先生のご著書、「ピアニストの脳を科学する 超絶技巧のメカニズム(春秋社)」です。
ピアノを弾く人の脳を科学的な見地で分析、とても分かりやすく解説してくれます。
内容は、お読みいただくこととして、特筆すべきは、やはり読みやすさではないでしょうか。
これだけ言語化が難しいテーマを、誰にでも理解しやすいように分かりやすく書くのは、なかなかできることではありません。
何より、著者の古屋先生の、
「研究の成果を音楽家の幸せにつなげたいという想いが、私が本書を執筆するに至った動機です」
という言葉に、その研究に対する情熱と、音楽に対する愛情を感じました。
ピアニストはもちろんのこと、ピアノの先生もぜひお読みいただきたい一冊ですね。
★今日の一冊
「ピアニストの脳を科学する 超絶技巧のメカニズム」(古屋晋一・著 春秋社刊)
偉大な作曲家の素顔「クラシックゴシップ!」 [書評]
面白い本を読みました。
ヤマハミュージックメディアから出版されている「クラシックゴシップ!」です。
本の表紙に、「歴史を作った作曲家の素顔」とあるように、16人の偉大な作曲家の私生活や恋愛などについて、読みやすく書いてあります。
「はじめに」にある、「人間として、男としての、魅力に迫る」という言葉の通り、普通の音楽史の書籍には語られないような「人間くさい」部分が書かれています。
かなり恋愛寄りなところがありますが(笑)、偉大な作曲家のそうした部分を知るのも、ある意味勉強になります。
ゴシップという言葉がタイトルにありますが、歴史的な背景や作曲家についてなど、綿密に調べて執筆されています。
なかなか類書では触れられない作曲家の素顔に迫っていて、しかも読みやすい語り口なので、スラスラ読めてしまいます。
偉大な作曲家も、やっぱり人間なのだな、とちょっと安心したりもしますね(笑)
【今日の一冊】
「クラシックゴシップ! 」上原章江・著 ヤマハミュージックメディア刊
森本眞由美先生の「すぐわかる! 4コマ西洋音楽史」 [書評]
音楽史は、ピアノを勉強する上でぜひとも知っておきたい知識の一つです。
ただ、子供たちにこれを教えるとなると、興味がある子でない限り、なかなか難しい面があります。
けれども、面白い読み物であれば、子供たちも興味を持って読んでくれます。
先日、読んでみて良いなと思ったのが、ヤマハミュージックメディアから出版された、「すぐわかる! 4コマ西洋音楽史」です。
この書籍は、3巻までで構成されていて、私が読んだのは、2巻の「バロック中期~ロマン派初期」と3巻の「ロマン派中期~近現代」。
読みやすい見開き1ページ1項目で構成されていますが、何よりの特徴は、タイトルにもあるように「4コマ漫画」でしょう。
作曲家の生涯や作品、音楽史などについて、面白可笑しい4コマ漫画があります。
千原櫻子さんの漫画、これは本当に面白いです(笑)
漫画ばかりにフォーカスされそうですが、著者の森本眞由美さんの音楽史の解説も読みやすく、とても分かりやすいです。
音楽史はとかく難しい本が多いですが、この本では作曲家の人柄や作品が生まれた背景、音楽の歴史をポイントをついて解説しているので、腑に落ちやすいです。
世界史とリンクしているところも、歴史好きな子供には興味をそそるでしょうね。
小さい子の場合、4コマ漫画だけ読んでしまうかもしれませんが・・・(笑)
ピアノ教室に一冊あると、生徒さんたちと何かと話題になりそうですね。
★今日の一冊
「すぐわかる! 4コマ西洋音楽史(ヤマハミュージックメディア刊)」
「音楽的」なピアノ演奏のヒント(野村三郎・著) [書評]
ピアノを弾く人であれば、音の「背後」にあるものを意識することの重要性は、誰しも理解しているでしょう。
作曲された当時の歴史であったり、作曲家の心情であったり、形式だったり・・・。
けれども、実際に演奏するにあたって、どのようにすれば良いかというと非常に難しいものがあります。
先日読んだ本に、そのヒントがありました。『「音楽的」なピアノ演奏のヒント』 ( 野村三郎・著 音楽之友社・刊)です。
この書籍では「豊かなファンタジーとイメージ作り」の副題にもあるように、さまざまな作品を取り上げつつ、演奏の際のイメージ作りの方法を書いています。
「どんなに『ファンタジー』にあふれ、奔放に見える曲でも、そこには『フォルム』が存在する」
「ファンタジーをもつこと(中略)は、曲への手掛かりをつかみやすくすること」
「ファンタジーは曲を作るきっかけではあっても、曲そのものではない。音楽表現が完成したときその役目は終わるのだ」
ドイツ留学時代によく先生から言われたことは、
「ファンタジーフォル(想像力豊かに)」
ピアノ演奏するにあたって、想像力を豊かにすることは大切ですが、「Fantasie」というドイツ語に含まれるその「ニュアンス」が心に響いて、その意味を深く考えさせられたものです。
特に興味深かったのは、バッハの「インヴェンションの仕掛け」や、ショパンの「音楽と文学の関わり」のところ。
ショパンは、私が好きな作曲家だということもあるのですが、バラードと詩人ミツキエヴィチの詩との関わりについては、各曲に詳しい解説があり、興味深く読みました。
「絵を完成させていくのは聴衆なのだ」
ショパンはそう言ったそうです。ショパンの曲を完成させるのは、聴衆であり、多くの部分をそこにゆだねている、ということは、ショパンの多様性を端的に表しているように思います。
この書籍は、もともとは「月刊ムジカノーヴァ」での「演奏とファンタジー」という連載(1995年9月号~1999年7月号)がもとになっています。
書籍を読むだけでも、当時の連載の濃さが見えてくるようです。
理解を助ける譜例や図、そして写真も多く掲載されていて、難しいテーマながら読みやすい構成になっています。
ピアノを演奏する人にとっては、有益な書籍であることは間違いないでしょう。
今日の一冊
『「音楽的」なピアノ演奏のヒント』 ( 野村三郎・著 音楽之友社・刊)
「モーツァルトの息子 史実に埋もれた愛すべき人たち」 [書評]
ふと気になって手に取った本。
「モーツァルトの息子 史実に埋もれた愛すべき人たち」という本を読んでみました。
この本では、あえて華々しい歴史の舞台には出てこない人物30人に焦点をあてています。
ひとりは、タイトルにもあるモーツアルトの息子。
6人兄弟の末っ子で、名前はフランツ・クサヴァー・ヴォルフガング。
小さい頃は音楽的な才能に恵まれて、演奏旅行などで活躍していたものの、年をとるごとに普通の人に。
最期は53歳でカールスバートでさびしく死んだ、とあります。
父、モーツアルトの名を名乗って音楽活動をするなど、やはり親の偉大さを感じながら、自分の能力を直視せざるを得なかったのでは。
モーツアルトには子どもがいたことは知っていましたが、どのような人物だったのかまでは知りませんでした。
こうした「史実に埋もれた愛すべき人たち」が、たくさん紹介されていて、興味深い本でしたね。
今日の一冊
「モーツァルトの息子 史実に埋もれた愛すべき人たち(池内 紀・著)」
「音大生のための就職徹底ガイド 新村昌子・著」 [書評]
音大生は、他の大学生に比べて、就職に対する意識が低い、と言われます。
確かに、私も在学中は進学を考えていたため、就職活動はしませんでした。
周りを見ても、積極的に動いている人は少数だったように思います。
ただ学生にとって、今のこうした時代は、自分がしたいことも加味して、先々のことを現実的に考えていく必要があると思います。
また、私の経験から鑑みても、進学・就職いずれにせよ、ある程度先回りして動いておくことが大事でしょうね。
さて、それに関連するわけではありませんが、先日「音大生のための就職徹底ガイド 新村昌子・著(ヤマハミュージックメディア)」という本を読みました。
タイトルにもあるように、音大生に向けた就職ガイド書籍です。
オーケストラ事務局、レコード会社、音楽事務所、出版社など、音楽にまつわる仕事が多岐にわたって紹介されています。
前述したように、音大生の就職活動への意識は低いと言わざるを得ませんが、これを読めば、何か動き出さねばという気持ちになりそうですね。
また、音大生であっても、社会で生きていくための実務経験やスキルがいかに大切か、という点が伝わってきます。
個人的には、各職業の方のインタビューが面白く、特に写譜の方の話は興味深かったですね。
巻末には、「自分の磨き方」という章もあり、学生には何かと役に立つ情報があります。
著者が自ら経験したことに基づいて書かれているので、とてもリアルに響きます。
現役の音大生やこれから音楽で仕事をしていきたいとする人には、役立つ一冊ではないかと思います。
今日の一冊
「音大生のための就職徹底ガイド 新村昌子・著」(ヤマハミュージックメディア刊)