「おもしろピアノ連弾ミックス~3匹のこぶたさんと、ひいらぎ飾ろう」 [書評]
楽器店に行くと、すでにクリスマス特集を展開していて、もうそんな時期かと思ってしまいます。
そんななか、面白い連弾曲集を見つけました。
「おもしろピアノ連弾ミックス~3匹のこぶたさんと、ひいらぎ飾ろう」という曲集で、「おもしろピアノ連弾ミックス」の第3弾となるものです。
今回は、クリスマス曲にフォーカスした連弾アレンジ。「はじめに」には、
「プリモもセコンドもどちらも主役。弾いても、聴いても、読んでも、見ても楽しい、一味違うクリスマス曲集になりました」
とあります。
ちなみに、全音の「音源動画視聴サービス」にて、実際の演奏が試聴できます。
あらためて感じるのは、クリスマスの曲はいい曲が多いな、ということ。
世界中の人がクリスマスを楽しみ、幸せな気分になれるのは、こうした数々の名曲があるからこそなのでは、とと思ったりいたします。
今回のアレンジも、世界各国のクリスマス曲を結集して、これまでにも増して力が入っているように感じました。
クリスマス会などで連弾をしたり、先生方による講師演奏などにも使えそうですね。
毎年使えそうなクリスマス連弾曲ではないかと思います。
★今日の一冊
「おもしろピアノ連弾ミックス~3匹のこぶたさんと、ひいらぎ飾ろう」関小百合・編
「本当に役立つ!ピアノ練習法74 まだまだ知りたい!編」 [書評]
昨年2012年3月に発売された、人気の書籍の続編。
「本当に役立つ!ピアノ練習法74 まだまだ知りたい!編(リットーミュージック)」という書籍を読みました。
書籍の表紙には、「15人の指導者が実践する最強のトレーニング」という副題があります。
この書籍には付属のCDがついていて、譜例にある実際の音を聴くことができます。
書籍の構成としては、前書よりさらに1章増えて、
第1章「基礎力アップ編」が27個、
第2章「実践力アップ編」が18個、
第3章「アンサンブル強化編」が25個
第4章「対応力アップ編」が4個
の練習法が紹介されています。
ピアノを弾く者にとって、他の人がどのように練習しているのかは、気になるところです。
私も含めて、自分の練習法は効率的なのだろうか?と疑問を持ちながら練習している人もいるかもしれません。
また、どういう練習をすれば効果的に上達できるのかは、弾く人のみならず、教える人も興味があります。
様々な人が実践する練習方法を知ることで、自分の練習方法を見直し、気づきを得ることは有益だと思います。
前書のような目新しさや、目からウロコ感が薄いことは否めませんが、例えばピアノ指導者にとっては、
「ピアノ・デュオ(連弾)のおすすめ曲&曲集紹介」
の項目は、レベル別に幅広いレパートリーを紹介しているので参考になる部分は多いです。
より自分のピアノの腕を磨きたい人には、参考になる書籍ではないでしょうか。
★今日の一冊
「本当に役立つ!ピアノ練習法74 まだまだ知りたい!編(リットーミュージック)」
ますこしょうこ先生の「生徒がやめない!ピアノ教室」 [書評]
出版されてから4か月、いまだに売れ続けている書籍、「生徒がやめない!ピアノ教室(ヤマハミュージックメディア)」。
85名の生徒さんを一人で教える、ますこしょうこ先生が、ご自身の経験や実績を一冊にまとめた本です。
【第1章】入門から10年の歩み
【第2章】魅力ある教室であり続けるために
【第3章】コンサートについて
【終章】これからのピアノ教室
といった章立てで構成されており、巻末には「ふろく」として、
・体験レッスンメニュー例
・ますこぴあの教室アンケート~生徒たちの声~
・ますこぴあの教室 年間指導計画表
・レッスンノート例
が実例とともに掲載されています。
本書のテーマは、「いかに生徒に長くピアノを続けてもらうか」。個人的にポイントだと思った点は、
・初日(体験レッスン)で最大限に惹き付ける
・子どもにも保護者にも未来を見せてあげる
・最初の3か月でこちらのペースに持っていく
・進歩を実感させる工夫をする
・コミュニケーションを密にする
・楽しいイベントで所属感を味わせる
・適切な目標を常に持たせる
こうした部分ではないかと思います。
挙げてみると、当たり前のように感じますが、実践となると簡単ではないのは、教室運営者ならばご理解いただけるでしょう。
特にイベントの開催には、時間や労力、金銭的なもの……。多くのものを投資する必要があります。
こうした点を乗り越え、レッスンからイベントまで、多彩に実践できるのは、やはり著者であるますこ先生の「生徒への愛情」でしょう。
「遠い親戚より、近くのピアノ教師」
確かに親以外で、ピアノの先生ほど長きにわたって一緒にいる「大人」は多くありません。
子どもたちにとって、身近な存在であること、
一緒に将来を考えていける存在であること。
こうした点に、ピアノ指導だけにとどまらない、指導者に与えられた「役割」を感じます。
ピアノ教室運営者であれば、一読の価値がある一冊です。
★今日の一冊
「生徒がやめない!ピアノ教室(ヤマハミュージックメディア)」
轟千尋先生の「いちばん親切な楽典入門」 [書評]
ピアノ教育業界で、今最も人気のある作曲家、轟千尋先生が、新刊を出されました。
「いちばん親切な楽典入門(新星出版社)」です。
巻頭の「はじめに」から引用すると、
「この本は、楽譜の本当の読み方を解説した本です」
「プロの演奏が素敵に聴こえるのは、ずばり、楽譜の本当の読み方を知っているから」
また、「この本の使い方」から引用すると、
「この本では、音の高さ・長さ、曲のノリ・つくり・表情・裏側の順に、楽譜の本当の読み方を学んでいきます」
「楽譜のルールがわかるだけでなく、演奏が素敵になって、鑑賞がよりおもしろくなる楽譜の読み方をわかりやすく解説」」
この本には付属のCDがあり、冒頭には轟先生ご自身の声で、この本についてお話されています。
「楽譜を読むこと、それはとっても楽しくてスリルがあって、ワクワクすることだと私は考えています」
また、このCDの演奏は、轟先生ご自身によるもので、素敵なピアノ演奏も聴くことができます。
(Track65の「目をとじて」は素敵な曲ですね)
進め方としては、まずは楽典の知識を分かりやすく解説。その後「チャレンジ」という練習問題や「特訓!」というコーナーで、習熟度を高めます。
この本のタイトルに「いちばん親切な」とあるように、難しいイメージのある楽典を、分かりやすく解説しています。
難しい言葉を使わず、丁寧に解説している点、親しみやすいイラストなど、読みやすい配慮があります。
といっても、音楽の専門家やピアノの先生が読んでも勉強になるレベルの話も少なくありません。
たとえば、各所にある「作曲家のはなし」では、なるほどと思う話が散りばめられています。
轟先生もおっしゃっていますが、音楽で大切なのは「耳」であり、感じる心、ではないかと思います。
けれども、そのためにはある程度の知識は必要です。
私も以前、テレビでアメフトをやっているのを見て、まったくその面白さが分かりませんでした。
なぜなら、アメフトを「鑑賞して楽しむ」ための知識やルールを分かっていなかったから。
それが分かってからは、世界が変わったかのように、このスポーツの面白さが理解できるようになりました。
これと同じで、音楽も「聴いて」「感じる」ためには、ある程度の知識やルールを知っておく必要がある。
そのために楽典があり、本書は「見て」「読んで」、そして「聴いて」学ぶことができます。
しかもその知識は、素敵な演奏にまで昇華できる。
音楽に興味のある生徒に、まず最初に渡す楽典の本、として、これから活用される先生も増えるでしょう。
★今日の一冊
「いちばん親切な楽典入門(新星出版社)」
「生徒に伝えたいピアニストの言葉」 [書評]
先日読んだ本に、「生徒に伝えたいピアニストの言葉」檜山乃武・角田珠実・編著があります。
著者は、ベストセラーとなった「音楽家の名言1~3」の檜山乃武さんと音楽ライターの角田珠実さん。
この「名言」シリーズの最新刊とも言える、ピアニストの言葉をまとめた書籍です。
「すべてのピアノを学ぶ人へ贈る テクニックと演奏表現のための“気づきの言葉”」
と 書籍の帯にあるこの書籍は、4章から成り立っています。
【Part1】ピアノを上達させる言葉
【Part2】やる気にさせてくれる言葉
【Part3】弾く前に知っておきたい名作曲家への言葉
【Part4】あこがれのコンクールを知ること
各ページに「名言」が書かれ、それに付随して、詳しい解説を施す、というパターンで構成されています。
今回の書籍は、世界の巨匠ピアニストから、現在活躍している日本のピアニストまで、ピアノや音楽、そして作曲家について、独自の世界観を幅広く紹介しています。
「何を練習したかではなく、いかに練習したかが重要である(バックハウス)」
「音の質というのは、耳でしか学びようがないのです(イヴ・アンリ)」
ピアニストならではの言葉に、ハッとさせられることも少なくありません。
個人的には、紹介されている「言葉」を、まずは自分のものに「消化」し生徒に伝えていきたい。
そのためにも何より「自分自身が精進し続けること」が根底になければならない、と自戒しました。
文章でもピアノでも、何かを表現し伝えるためには、そこに裏付けとなる果てしない「学び」が必要。
どの仕事も、突き詰めると「人間性」にまで関わってくる。だからこそ、生きる上で「学び」が必要最低条件なのでしょう。
何かを伝えるということは、結局は、
「自分の生き方を伝える」
ことなのだろうと、あらためて感じます。
★今日の一冊
「生徒に伝えたいピアニストの言葉」(ヤマハミュージックメディア)
「ピアノ嫌いにさせないレッスン」船越清佳・著 [書評]
最近では、ピアノレッスンの関連書籍が多数出版されていますね。
先日読んだのは、「ピアノ嫌いにさせないレッスン 船越清佳・著」という書籍。
書籍の帯には、「生徒が苦しまずに続けられるレッスン法」とあります。
パリの市立音楽院でピアノ指導をしている著者。
フランスでのピアノ教育の実例を交えながら、これからのピアノレッスンのあり方を考えています。
巻頭には、パリ地方音楽院の院長によるインタビューがあり、フランスのピアノ教育事情や、教育観が語られて興味深いです。
内容は以下の通りです。
第1章:一生ピアノと関わり続けるフランスのピアニストたち
第2章:生徒とともに進めるレッスン
第3章:"意味"を考える練習法
第4章:先生として進化する
第5章:21世紀の音楽教育
巻末には、「レベル・タイプ別レパートリーリスト」が掲載されています。
あまり目にすることのない曲も挙がっていて、興味深い選曲になっています。
特徴として、フランスのピアノ教育を紹介しつつ、これからのレッスンを考える点が挙げられます。
フランス語の「弾く:jouer」には「遊ぶ」という意味もある、とあります。
私もドイツ留学時代に感じたことですが、彼らにとってピアノを弾くことは、やはり「楽しむこと」である、ということです。
例えば友だちに「これから練習するんだ」と言うと、必ず「viel Spass!(楽しんで!)」と声をかけてくれます。
やはり欧米人には「楽しみたい思い」が根底にあり、ピアノにおいてもこれは変わらないと実感しました。
この点は日本のピアノレッスンでも大切にすべき考え方の一つではないかと思います。
本書の詳しい内容はお読みいただくとして、私がなるほどと思ったことをいくつか。
「先生は、生徒に美しい音色のイメージを与える存在でなければなりません」
「レッスンは、一緒に考えて、一緒に問題解決をする場」
「(右手より左手が下手だと)うまいソリストが下手な伴奏者に足を引っ張られているようなもの」
「音価によってタッチを変える(細かい音になるほどタッチは軽くなっていく」
第3章は、実際のレッスンで使える内容がたくさんあります。
特に、「正しいイメージを与える」のところでは、生徒にどう説明すれば分かりやすいかを解説。
これは実際の現場で役立ちそうです。
ピアノ指導を仕事にしている方には、現場で生かせる何らかの気づきが得られる一冊ではないかと思います。
★今日の一冊
「ピアノ嫌いにさせないレッスン 船越清佳・著」(ヤマハミュージックメディア)
「あなたがピアノを教えるべき11の理由(飯田有抄・構成・解説)」 [書評]
以前、「あなたがピアノを続けるべき11の理由」という書籍をご紹介いたしました。
先日、この続編とも言える本が出ました。
「あなたがピアノを教えるべき11の理由(飯田有抄・構成・解説)」。
前書が、ピアノを弾く・学ぶ人への提言でしたが、今回はピアノ指導者への提言としての一冊です。
「はじめに」にもあるように、
「『ピアノを教える』という教育活動をあらためて考える」
「どのような意義があり、何が求められているのか」
をテーマとして、「ピアノを教えることの意味」を考えるものとなっています。
今回も、ピアノ指導者やピアニストはもちろんのこと、幅広い分野での第一人者が寄稿しています。
なかでも、生物学者の福岡伸一さん、公文の三宅良寛さん、などは、およそピアノとは関係ない人物。
けれども多くの場合、新しい知見はおよそ分野の違う人の視点から生まれるもの。
今回の人選も、おそらくそうした意図で、行われたのでしょう。
11人の専門家が考える、「ピアノを教えるべき理由」。
具体的な内容はお読みいただくとして、個人的には、
「生物と無生物のあいだ」で有名な、福岡伸一さんの、
「教育の目的とは、この『センス・オブ・ワンダー』の『ありか』を子供たちに伝えること」
ピアニストの舘野泉さんの、
「本を読むことも遊ぶことも、私にとってはピアノから遠いものではなく、すべてが一つにつながっている」
吹奏楽指導者の石田修一さんの、
「たった一つの音をポンと鳴らすだけでも、そこには千の表情をつけることができる」
「幸せとは、人に感謝し、人のために自分が何かをしてあげられること」
公文公教育研究所社長の三宅良寛さんの、
「指導者は自分自身が学び続ける存在であるべき」
などは、ピアノ指導者として大切なマインドとして、心に残りました。
文量はそれほど多くありませんが、あらためて「指導者とは?」を考えるきっかけとなりました。
欲を言えば、もう少し、音楽やピアノ業界ではない、全く違う分野の方のお話もあれば、と言うところですね。
いずれにせよ、今ピアノを教えている人、これから教えようと思っている人には、心に残るフレーズがたくさんある。
そんな一冊ではないかと感じました。
★今日の一冊
「あなたがピアノを教えるべき11の理由(飯田有抄・構成・解説)」ヤマハミュージックメディア
「自分の音、聴いてる? 発想を変えるピアノ・レッスン」山本美芽・著 [書評]
生徒さんで、指がうまく回らない、音が転んでしまっているときには、こう言ってみることにしています。
「自分の音をよく聴いてみて」
大抵、上記のような問題は、自分の音がよく聴けていないことから生じることだ、と私も自分の経験から理解しています。
「耳がサボる」という表現もしますが、聴くことがおろそかになってしまうと、弾けるものも弾けなくなってしまうのは、面白いことでもあります。
山本美芽さんの新刊「自分の音、聴いてる?発想を変えるピアノ・レッスン」は、まさに「聴くこと」にフォーカスした書籍です。
音楽ライターとして15年のご経歴を持ち、その間には様々な素晴らしい音楽家やアーティストへのインタビューをされてきたそうです。
そのなかで、どの音楽家も大切にしていることが「聴くこと」。
本書では、なぜ聴くことが大事なのかを様々な視点で考察しています。
思えば、恩師が他の楽器と「合わせること」の重要性を、いつも説いてくださいました。
この書籍でも室内楽をやると耳が鍛えられる、と書いていますが、これは私も経験を通して実感しています。
私もシューマンのピアノトリオを演奏会でさせていただいたことがありますが、確かにバイオリンとチェロとの合わせは、構成が分かりやすく、またバランス感覚も鍛えられたように思います。
ともすると失いがちな、音楽の「息遣い」を、合わせることで気づかされたことは少なくありません。
また、メトロノームのくだりにもありましたが、大切なのは「自分以外の音」を聴きながら弾くこと。これは誰もが実感していることだと思います。
そしてここがポイントだと思うのですが、それが結果的に「自分の音」に敏感になることにつながり、音として現れたときのクオリティが変わってくるということ。
だからこそ、合わせることが重要になってくるのですね。
「レッスンとは、自分よりもハイレベルな聴く力を持っている人に、自分が聴いても気づかないポイントをチェックしてもらう場」
「自分の頭の中に住んでいるピアノの先生のステージを上げていくことが、ピアノの上達に直接的に役立つ」
「聴くことと、歌うこと、リズムをとることが、心の中ですべて同時に起こり、一体になっていると、それは『積極的な聴き方』になっている」
こうした言葉は、自分の音楽を創り上げる際に必要なことであり、あるいは教える立場になったときにも、大切なことだと実感しました。
自分の演奏に行き詰りを感じたら、「私は今、自分の音を聴けているだろうか?」と自問すること。
それが実は、解決への近道になるのかもしれません。
★今日の一冊「自分の音、聴いてる?発想を変えるピアノ・レッスン 山本美芽・著」(春秋社)
「われら!ピアノ・ルーキーズ・バンド」春畑セロリ・作曲 [書評]
ピアノ教育業界でも人気で、このブログでもたびたびご紹介している、春畑セロリ先生が、新刊を出されました。
「きまぐれれんだん」シリーズの4冊目となる曲集、「われら!ピアノ・ルーキーズ・バンド(音楽之友社)」です。
タイトルに、「ルーキーズ」とあるように、ピアノ1台で初心者でも取り組めて、しかもみんなで楽しめる、合奏アレンジになっています。
1人1パートなので、それぞれ片手で(がんばれば1本指で)弾くことができます。イメージとしては、アカペラで歌うボーカルグループ、といった感じでしょうか。
3人から5人(アレンジで多いのは4人)がピアノ1台で、みんなが知っている曲を合奏できます。
この曲集には、童謡やクラシック、ポップス、カンツォーネなど様々なジャンルの曲が取り上げられています。
「もりのくまサンバ」や「もりのくまシャンソン」「スワニー・ボサ」など様々なスタイルのアレンジ。また、「チャレンジショパン!」では「英雄ポロネーズ」や、「遺作のノクターン」さらに「バラード1番」なども。
「パフ」では、二人水入らずの演奏に、別の二人が途中で「乱入」する場面もあるなど、面白い仕掛けもありますね。
ゆったりとした曲では、オシャレで大人っぽいアレンジ、リズミカルな曲では心躍るようなアレンジ。どれも楽しめる作品ばかりが収められています。
合奏などで、お互いの音をよく聴き合うことは、ピアノや音楽の勉強に欠かせません。けれども、ピアノ教育の現場では、子どもたちが「アンサンブル」を楽しむ機会はあまりありません。
誰もがそうだと思いますが、音楽の楽しさを実感できるのは、みんなで一つの音楽を創りあげたときです。
小さい子たちがわいわい楽しみながら「合わせる喜び」を知る。
この曲集のような1人1パートという編成であれば、それも可能になりますね。
発表会やちょっとしたイベント、子どもたちが集まるグループレッスンなど、ピアノ教室でも使える一冊。
春畑セロリ先生の、楽しい世界やサウンドに触れてみてはいかがでしょうか。
★今日の一冊
「われら!ピアノ・ルーキーズ・バンド 春畑セロリ・著」(音楽之友社)
「ドビュッシーと歩くパリ」中井正子・著 [書評]
ヨーロッパでの音楽留学の醍醐味として、学びながら様々な国を訪れることができることが挙げられると思います。
ヨーロッパは地続きで、交通網も発達しているので、時間とお金に余裕があれば、どこにでも行くことができます。
私もドイツに留学していたときに、友人でピアニストの山口雅敏さんを訪ねて、パリに行ったことがあります。
肌が痛くなる、40度を超える真夏でしたが、彼は私にとっての初めてのパリを、ポイントを絞って、見事に案内してくれました。
先日読んだ本に、中井正子先生の「ドビュッシーと歩くパリ(アルテスパブリッシング)」があります。
中井正子先生といえば、ドビュッシーのピアノ作品の全曲演奏会や全集CD録音、全曲実用版楽譜校訂などで、ドビュッシー演奏の第一人者として知られるピアニスト。
その中井先生が、ピアニストの視点でパリを案内してくれるのがこの書籍です。
ドビュッシーは今年生誕150年を迎えたフランスの作曲家。「月の光」などは、CMなどでもよく流れているのでご存じの方も多いでしょう。
そうしたドビュッシーゆかりの地を、作品の解説や写真で彩りながらガイドしてくれています。
「彼の人生や音楽を一緒に体験する楽しみを味わっていただきたい」
と「はじめに」にもあるように、ドビュッシーの生涯や暮らしぶり、作品の背景などが、パリの街とリンクして味わうことができます。
中井先生の留学時代のお話も含め、あたかも一緒に歩き、お話を伺いながら、パリの街を散策しているかのような、そんな気分になります。
初めてパリで、モンマルトルの丘やルーヴル美術館、旧オペラ座を訪れたときの、あの感覚が甦ってきます。そうした情景や空気感まで伝わってくる文章は素晴らしいです。
また、「こういうところでゆっくり読書したいな」と思わせるような、パリの街の写真がいいですね。
駅で、改札を通らず乗り越えていく若者を唖然として見た経験がありますが、この本にあった、カルネ(交通チケット)を買うくだりの「アンタラネ・シモブクレ」には笑いました。
この書籍には、自身の演奏によるCDも付属されていて、これを流しながら読んだり、写真を眺めているだけで、パリを歩いているような気分になれます。
柔らかくもシャープな中井先生の演奏、選りすぐりの19曲の名曲で、ドビュッシーのピアノの世界を堪能しました。
あらためて、ドビュッシーの素晴らしさ、そしてパリの良さを感じることができる、そんな一冊でした。
今度パリに行ける日はいつになるだろう。今度は哀愁ただよう秋に、訪れてみたいものです。
★今日の一冊
「ドビュッシーと歩くパリ 中井正子・著」(アルテスパブリッシング)