町田育弥先生の「みみをすます」 [ピアノ教本]
音楽之友社から出版されたばかりの新刊教材、「ピアノとソルフェージュの本 みみをすます」をご紹介いたします。
著者である町田育弥先生は、桐朋学園大学の作曲科をご卒業、さまざまなジャンルの音楽の作曲を手掛ける一方で、ピアノ奏者としてもご活躍の先生。作品の数々は、海外でも評価を得ています。
この教材は、
「子供たちの視点に立って音楽の原点に立ち返ろう」
という町田先生の思いから生まれた、新しいタイプのピアノとソルフェージュの教材です。
「音楽を自ら能動的に楽しむように育てること」
「自分なりの表現を見つけるその過程に喜びを体験する」
巻頭にある「はじめに」と「第1巻について」には、ピアノ教育への貴重な示唆や熱い思いが込められています。
さすが作曲家の先生の教材だけに、導入期の指導のポイントが極めて論理的に書かれています。
「音符は解読すべき暗号として存在するのではなく、身体感覚としての音のイメージを図象化した結果にすぎない」
「初期段階では『読むこと』と『弾くこと』は別個の行為として独立しているべき」
などの言葉からは、これまでのピアノ教材にはないアプローチを感じますね。
また、この教材に彩りと楽しさを加えている、雨田光弘さんの猫のイラストが可愛らしい。
柔らかなタッチで描かれているさまざまな猫たちは、ピアノの楽しさを目で伝えてくれています。
黒鍵をおさえて倍音を聴く「オクターブのまほう」、音の名前を覚えるための、「おんめいりんぐ」でのしりとり、正しい手のフォームを指導するための「ゆびのあしあと」、などこれまでにないアイデアだと思いました。
音の読み方の指導の部分では、たくさんのページを取って、きわめてゆっくり、じっくり、そして単純に進んでいきます。
この辺りに、単なる「読譜」の指導にとどまらない、音の「イメージ」を大切にした指導を感じます。
また特筆すべきは、随所に書かれている子どもたちへの言葉。
たとえば、拍の勉強の部分にある「こころの あしおと」から引用させていただくと、
「いつも おなじ はやさで
すすんでゆく
こころの あしおとを
はく という
でもはくは
だれにも きこえない
きみが おもったときに
きみの こころの なかにだけ
うまれる」
といったような、素敵な詩を読んでいるかのような言葉に、音楽を教えることの「深さ」を感じます。
ただ、これまでの導入教材とはちょっと趣が違うため、使用する際には自分なりに研究して、消化しておく必要性があるでしょうね。
町田先生はセミナーも開催される予定のようですので、教材の使い方はもちろん、導入指導のエッセンスを、 この教材から学ぶというのも有効だと思います。
ぜひ楽器店等で、一度ご覧になってみてください。
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